閉じられた世界
ある村には可憐で恐ろしい鬼がいる。
生まれた時から少女は【鬼】だった。
母親はその角で体内を傷つけられて死に、彼女を恐れた父親は彼女が生まれたその日に姿を消した。
哀れに思った村の者たちは彼女を育てた。
戦う力も丈夫な体も持たない彼女だったが、代わりに「少し先」の未来が視えた。
村の者たちは彼女を「閉じ込める」ことによって大事にした。
少し先が分かるのなら、人間たちが力を持つには十分だ。
少女はこの生活が何一つ不自由なものではないものだと思っていた。
与えられる食事はじゅうぶんであたたかい。
外には出れないけれど、話し相手に来てくれる子供たちは皆優しい。
自分が見ることのない外の世界でどれくらいの血が流れているかを少女は知っている。
それでもここに暮らす人々を守らなければと彼女は力を使う。
いつしか村はとても大きくなっていた。
鬼退治
【鬼】を討たんとする者たちが現れ始めた。
殆どの者が少女に辿り着くことはなかったが、たった一人だけ彼女のもとへ侵入した者がいる。
少女の部屋にたどり着いたその人物は少年か少女かよくわからないぐらい瘦せていて、髪も短い。
ただ目的の鬼である少女を見た瞬間、顔を真っ赤にしてその場を去った。
その後その暗殺者は暗殺をすることなく、贈り物と土産話を携えて何度か姿を現すようになる。
すっかり仲良くなってしまった頃、暗殺者はこれが最後だと言った。
貴女を殺せない自分はそろそろ始末される、逃げるから会うのはこれで最後と。
鬼は言った、私も連れて行ってと。
貴女無しではもう生きられないのだと。
それに、もう無いのだ。
料理はとっくの昔に味を感じなくなっていた。
最近は頻繁に力の使用を求められ、心身が疲弊していたから。
優しかった子供たちはいつの間にか大人になって戦いに出ていなくなった。
生き残った者は力の使用を求める立場になっていた。
大好きだったあの子も、あの人も、皆変わってしまった。
残ったのは醜くなってしまった大人たちだけ。
鬼の中にここを守る理由がなくなってしまった、その結果思ったように力が上手く使えなくなっていった。
思い通りにならない鬼は次第に疎まれ、最近の心の拠り所は自分を殺せない暗殺者だ。
「……オレに、あんたを幸せにする力なんてない。でもここではないどこかに、連れていきたいと思う」
おずおずと差し出された手を少女は取る。未来は視えない。それでも今の私の幸せの選択はこれだと。
鬼ごっこ
2人きりの旅は思わぬ形で終わりを迎える。
迫りくる追っ手、守ってくれるその人の姿は見ていられないくらいに傷だらけだ。
鬼の血を引けどもこの身に戦う力などない、未来は視なくてもわかってしまう、嫌だ、誰か。
何の役にも立たないと知りながらも動かない暗殺者の前に立って、助けて、と口にした瞬間。
「……間に合った、か?」
目の前に現れたのは自分よりも大きな角を持つ、見知らぬ黒い男だった。
龍に引かれ兎を引いて
「お前を迎えに来た。共に箱庭へ来てくれ」
差し伸べられた黒い手。
この手を取ってしまえば二度と戻れない。
何も説明されずとも本能でわかる。
自分たちを追ってきた者達とは明らかに強さが違う。
彼らは一瞬で言葉を発しない、動かない肉塊になってしまった。この男がそうした。
自分のような半端者ですらない、本物の力を持った純正の人ならざる者だ。来てくれ、なんて来いと同義だ。口にしてくれるだけマシなのかもしれないが。
ただ、それでも臆するわけにはいかない。今は倒れている命の恩人を助けられるのは自分しかいないのだ。
「……ミサキを助けてくれるなら、ミサキも、一緒でいいなら。ミサキにひどいことしないのなら」
「……そいつのことばかりだな。駄目だ、と言ったら?」
「ここでミサキと死ぬ」
「それは困る、引き受けよう」
思ったよりもあっさりと男は承諾した。
「……もっと怖い条件とか、追加してくると思った」
「安心しろ、おれは約束は違えない。嘘はつくが」
「それじゃあ約束そのものが嘘だったら違え放題じゃない」
「言われてみれば……そうだな」
いや守るのは本当だぞ?と男は言い、約束を守ることが嘘ではないという証明の言葉を考え始めてしまった。先程までの妖しさも威圧感もどこかへ姿を消してしまう。
本当に約束を守ろうとするヒトなのだろう。いい人、というわけではないということは無秩序に転がる肉塊が嫌というほど物語っているが。
梅は差し出された手を取り立ち上がる。鱗のざらつきが分かる手に、これは手袋で黒いわけじゃなかったのか、と梅は口に出さずに驚いた。よく見れば刺さらないよう男が気をつけていただけで爪も真っ黒で鋭い。
こんなにも短い間に2度も大きな決断をすることになろうとは。今まで言われるがままに生きていた自分へのツケなのかもしれない。
「逃げ場がないことだけは力が使えなくたって分かる。どこに行っても箱の中が私の運命なら、ミサキと一緒の場所がいい。貴方と、行きます」
契約成立だ、と男は笑う。そして彼は本当に約束を守ってくれるヒトだった。
- 名前
- 梅(うめ)
- 年齢
- 見た目18ぐらい
- 性別
- 女性
- 一人称
- オレ
- 身長
- 171㎝
- 好きなもの
- 飴・昼寝
「閉ざされた箱の中が運命だというのなら、せめて退屈しない所で、貴女のいる箱の中で」
丑の役。
細かいことは気にしない。たまに面倒くさがり。鬼の血を薄く引いている。
静と美咲と同棲中。味覚は箱庭に来てから元に戻った。
美咲と両思いのはずだがまだ正式に付き合っていない。
