新
ハルナは空架図書館の新しい館長である。
前館長で育ての親であるマグヌスから今日から君が館長ね、と無茶振りをされ、断ることもできないまま今に至る。
自分より幼い見た目でありながら先輩であるトワとフロルに頼りないなあと言われながらも慣れない仕事をこなしていた。
そう言われながらも嫌われてはいないようで、サポートはしっかりしてくれるし休憩時間には一緒に遊べとせがまれる。
早くこの子たちに認めてもらえるような一人前にならなくてはと今日の分の仕事と向き合って早数時間、マグヌスから休憩にしようと声をかけられた。
いつか一人前と認めてもらいたいもう一人のヒト。
飲食が出来ない体なのにいつも完璧な温度と味で差し出されるミルクティーを飲みながらハルナはテーブルの向かい側に座るマグヌスを見る。
何故このヒトは突然館長を辞めたのだろう?
尋ねても歳を取らない人形の青年はいずれ分かる時が来るよ、とその理由を教えてはくれなかった。
箱庭草子
物語を閉じようと青年は箱庭へ降り立った。
鳥居が崩れ半分の大きさになり、愛する者と植えいつしか神木と呼ばれたものが倒れ、無人となったその場所をひとつひとつ確認するように彼はゆっくりと歩く。
全てが朽ち、誰もいない場所だが恐怖のようなものは感じられない。吹く風は穏やかで、ただ静かな場所だ。
その奥で見つけた、地面から不自然に盛り上がった「何か」。それは草花に覆われよく見えない。
「何か」を囲むように咲いたジシバリの花を踏み、近づき、触れ、そこでようやくそれは龍の亡骸であることに気づく。龍の亡骸は何かを守るように囲んでいた。
石だ。文字が彫られている。もう読みにくくなっているそれを青年は指でなぞりながら確認する。
青年はその名前を知っていた。
「……遥」
片割れの名前。
箱庭の世界に迷い込んだ自分を追いかけてきてくれた。箱庭を救いたいという自分の気持ちを汲み、すべての力と記憶を失ってまで正解のページに立って道を示してくれた。
そしてそのままこの箱庭でただの人間として生を終えた。
その片割れのことを思い出せたのは箱庭から図書館へ戻り彼を喪った後だ。
お互いの正体を知らぬまま過ごした日々。
ハルナは箱庭で過ごした時の姿に変わり龍の亡骸と片割れの墓に寄り添う。
泣かないようにと、そう思っていたのに。
真夏の逃げ水、向日葵。暑さは苦手と日傘を差した卯と夏は好きだから、と元気な寅。帽子ぐらいは被った方が、と午に心配されていた。
遥は入手したてのカメラとやらが気に入ったらしくずっと向日葵やハルナたちを撮っていて、後日寅と共に日焼けの痛みに悩まされていた。
落ち葉掃除そっちのけで申と巳と戌と一緒に焼き芋を焼いて辰に怒られた秋。真面目に掃除をしない様子を見かねて子が告げ口したらしいがちゃっかり焼き芋は食べていた。
急遽始まった冬の雪合戦。丑は見るからに寒そうな格好だが気にならないらしい。
普段外に出ることが出来ない未は庭で大人数で遊べることが楽しそうで、その様子を見て亥は嬉しそうだ。
酉は渋々参加した、という顔をしながらも負けず嫌いなため容赦のない雪玉をぶつけられたことは今でも覚えている。
そして初めて見た春。桜の美しさに泣いていた春無に貴方はもう【春無し】の化け物ではないの、と言ったのは愛したヒト、神様。
十二支たちと過ごした大切な四季の日々。春無は溢れる涙を止めるのを諦めた。
龍の亡骸と片割れの果ての傍で三日三晩泣いて過ごした後、青年はゆっくりと立ち上がった。
もう飽きるほどには泣いた。あとは決心しなくては。
大事なヒトたちがいた。遥が己の命をかけて残してくれた。
春無としての生はこの箱庭と共に終わる、置いていく。
取り出した和綴じの一冊の本。タイトルは箱庭草子。最後に書き足す一文はもう決まっている。
「この箱庭は確かに愛されていました」
- 名前
- ハルナ
- 主な出現場所
- 館長室・学習室・屋上
- 身長・年齢
- 184㎝/78kg/見た目24歳ぐらい
- 一人称
- 俺
ようこそ空架図書館へ。
空架図書館現館長。新米の為少々頼りない。
片割れは喪ってしまった。
派遣部確認印のアルファベットは【H】。

